自然気胸体験記

突然だが、7年ぶり3回目の自然気胸の手術を終えた。 3回もやればもはやプロといってもいいんじゃないかと思ったので、今回はその際の状況と体験談を記録してみる。

気胸とは

他に解説しているサイトはたくさんあるので、詳しくは書かない。

一言でいえば、肺に穴が開く病気である。

肺に穴が開いてしまうと、 胸腔(肺と胸壁の間のスペース) に空気が漏れてしまい、肺がつぶれてしまう。そのため呼吸が苦しくなり痛みが発生する。

症状は表現が難しいのだが、痛みは鋭いものではなく、締め付けられるような鈍い痛みである。 横になったりそこから起き上がったりしたときに特に強い痛みを感じる場合がある。

特徴的なのは体勢を変えた時の感覚で、特に前かがみになったときに肺のあたりで空気が「ボコボコ」と動くような感覚があれば、気胸の可能性が高い。

何度も経験している私から言えることは、発症したら1週間程度は治療に時間をつぶされる覚悟で、全てをあきらめて病院に行きましょうということ。放っておいても何もいいことはない。

医者にかかるときは、まずは内科でよいと思う。本当に気胸かどうかはレントゲンを撮ればすぐにわかるので、適宜専門医に回してくれる。ちなみに気胸の専門は呼吸器外科である。

私と気胸

私が初めて気胸になったのは、おそらく中学生の時だったと思う。胸が苦しくて体育の授業を休ませてもらったことがあって、今思うとあれは気胸の痛みだった。

その後、数えきれないほどの再発を繰り返すことになる。

自分の体がおかしいという認識はあったのだが、放っておけば数日から数週間で治っていたので、 当時からそれほど生きることに執着がなかった私は、「きっと自分は長生きできないのだろう」と半ばあきらめの気持ちでごまかしていた。

状況が変わったのは大学生の時。アルバイト中に例の痛みに襲われて、仕事を続けるのが難しくなった。このころには、インターネットの情報などをもとに、この痛みが自然気胸によるものだろうという予測はついていた。

「バイトを休むにも、理由が必要だろう」という理由で、初めてきちんと医療機関を受診。予想通り、自然気胸と診断され、即入院となった。

その時が右肺、その3年後に今度は左肺も手術し、そして今回、再び左肺に症状が再発したという次第。

今回の症状

仕事を終え帰宅し、そろそろ寝ようかと思っていた時、例によって特有の痛みと感覚があったので、気胸になったことはすぐにわかった。

何度も再発している人にとってはあるあるかもしれないが、痛みの具合でだいたいどの程度「重い」かがわかるようになってくる。今回はそんなにひどくないなぁと思って、とりあえず一晩寝て様子を見ることに。まぁ、仕事できないでもないかなぁと思って翌日は出勤したのだが、少し力仕事を頼まれて動いていたら、かなりつらくなってきた。これは仕事に支障が出る、ということで早退、病院へ。

今回の治療方法

案の定、気胸としての程度はそれほど重くはなかった。

症状が重い場合、それこそ緊急入院して局所麻酔で脇の下に穴をあけ、そこから空気を排出するための管(ドレーン)を入れる必要があるのだが、今回はそこまででもない状況。

CTというのは便利なもので、レントゲンでは把握しきれないような、空気が漏れている詳細な状況とか、ブラ(気胸の原因になる、肺の表面にできる気泡みたいなもの)の状況とかが素人にもよくわかる。見たところブラは2つほどあるようだった。

これが初めての気胸なら、そのまま自然に治るのを待ってもよい程度だったのが、術後再発という状況や、ブラが複数あるという状況もあり、翌日に準備万端整えて入院、翌々日に手術ということになった。

気胸の手術は「胸腔鏡手術」

基本的に、気胸の手術は「胸腔鏡手術」といわれるものになる。脇の下に3,4か所、2,3㎝くらいの穴をあけて、そこから内視鏡やメスを差し込んで問題個所の修繕を行うというものである。

気胸の状況にもよるので、手術の内容は人それぞれだと思うが、たいていはいわゆるブラを切除したり、小さめのブラの場合は表面を焼き縮めたりした後、上からフィブリン糊(生体接着剤)や時間が経つと生体に吸収されるシートで補強する、という形になるのではないだろうか。

ちなみに、私は同じ肺で2回目だったので、以前手術した箇所が胸壁と癒着しており、いったんそこをはがす作業も必要だった。

入院初日

入院初日にやることといえば、入院や手術に関するオリエンテーション。

後は、手術に備えて採血をしたり、脇と太ももの毛を剃ったり。

動脈から採血する必要があるということで、足の付け根に針をぶっさしたのだが、これが地味に痛かった。

最近は剃毛はセルフサービスの場合も多いらしい。バリカンを渡されて、シャワーを浴びるとき自分で剃った。ちなみに、気胸の手術の場合は陰毛まで剃る必要はない。

翌日が手術ということで、この日は夕食後から絶食に。その代わり、脱水防止のために経口補水液を飲むように指示があった。

入院2日目(手術日)

手術は16時からで、11時過ぎは飲水も禁止。

症状が軽ければ、手術着に着替えた後、手術室までは歩いて移動する。3回目ともなれば、正直あまり緊張感はない。

手術室も見慣れた光景といった感じ。やっぱり目立つのはあの独特のライト。あれを見るとああ手術室に来たなぁという感じがする。あと、全体的に緑な色合いも。

心電図やらを付けたら、さっそく全身麻酔。今回は注入開始から10秒程度で意識を失った。

麻酔から覚めたら何を感じるか

麻酔から覚めた瞬間、まず感じるのは、のどから何かが引き抜かれる感覚。人工呼吸器が外されるので、その時の感覚だろう。だが、これはすぐにどうでもよくなる。

次に感じるのは「寒さ」。手先がかなり寒くて、震えていたと思う。ただ、カイロか何かで温めてもらえるので、こちらも気にならなくなる。

続いてやってくるのは、息苦しさと痛み。肺の手術だからなのか、大きく呼吸ができない。浅い呼吸しかできなくて、「このまま呼吸困難で死んでしまうのではないか!?」と不安に駆られるが、酸素マスクもついているし、浅い呼吸でも問題ないので安心してよい。むしろ私は初回の手術の時、焦って呼吸をしすぎたことで過呼吸になった。

尿道の管はしばらく抜かないこと!

術後の痛みには当然胸の痛みもあるが、特に男性の場合地味につらいのが尿道の管の痛みである。意識が戻ってすぐに違和感を感じる部分で、「早く抜いてくれ!」と思うのだが、焦ってすぐに抜くようにお願いしてはいけない。

尿道の管を抜いてしまうと、自力でトイレまで行くか、尿瓶に用を足すかを余儀なくされることになる。しかしながら、術後すぐは意識がはっきりしない上に、心電図や点滴がつながり、酸素マスクもついている。もちろん脇からは胸腔内に管(ドレーン)が入っているので、自力で動いて用を足すというのは非常につらい作業となる。しかも、管を抜いた直後は尿道が傷つき、排尿時に鋭い痛みが走るので排尿自体も苦痛なのだ。

心電図や酸素マスクが外れ、意識がはっきりし、体の動きを制限するものがドレーンと点滴くらいになった段階で初めて管を抜くことをお勧めする。病院によっては、患者の意思に応じてすぐに外してしまう場合もあるようなので、本当に注意してほしい。私は初回の手術の際にそれで地獄を見た。

入院3日目(手術翌日)

早くも心電図や酸素マスクははずれ、水も飲めるようになる。

傷口を消毒したり移動式のレントゲンで撮影して肺の状況を確認。問題がなければ、ベッドから起き上がり、出歩くことも可能になる。麻酔から覚めた直後のことを考えると信じられないかもしれないが、意外とすんなり歩けるもので、痛みもそれほどない場合が多い。

歩けるようになったら、尿道の管も外す。特に男性の場合、この管を外す作業がちょっとした事件で、思わず「おぉう」と声をあげてしまうに違いない。ただ、本当に辛いのはその後の排尿時の痛みなのだが。

そして、気胸で入院した時に一番印象に残るものといえばこれだろう。

脇から延びるドレーンの管と、それがつながっているボトル。

左側のホースは胸腔内につながっていて、右側のホースは吸引ポンプにつながっている。胸腔内に漏れた空気を一定の圧で常に吸引してくれるシロモノ。

ボトルの左側にたまっているのは血ではなく胸水。体勢によってはこれが結構ドバドバと出てくる。まぁ、見ていてあんまり気持ちのいいものではない。

ボトルの右側には、青と黄色の液体が封入されている。青い液体のほうは呼吸に合わせて水位が上下するのだが、息を吐きだしたときに水位が下まで下がって、黄色い液体のほうに気泡が出てくる場合、肺の穴がまだ十分ふさがっておらず、空気が漏れてしまっている(リークしている)ということらしい。

私は今回は2回目の手術ということもあり、少しこのリークがあったようで、ドレーンを外すのは翌々日以降にお預けとなった。

入院4日目

実はつらいのは3日目から4日目にかけてかもしれない。手術翌日の就寝前には痛み止め間欠注入が終了することで、急に痛みが出てくる場合があるからだ。

この日も、肺からの空気漏れが若干ある状態で、ドレーンを外すのは再び翌々日以降にお預け。

入院5日目

このくらいになると、暇でしょうがなくなる。

空気の漏れはほとんどなくなったということで、ドレーンをハサミのような形の器具(調べたら鉗子という名前らしい)で2か所留めて、ドレーンを外したのと同じ状態にして様子を見ることに。これで肺が縮まなければ、翌日にはドレーンを外してもよいことになった。

入院6日目

レントゲンを撮って、肺の縮みがないことが確認できたので、ようやくドレーンが外れる。

ドレーンを抜く際は、局所麻酔を行う。私は注射が大嫌いなので、この局所麻酔というのも苦手なのだが、やっぱり冷や汗ものである。抜き取り自体は一瞬で終わるし、痛みもない。

抜き取った後は、医療用のホッチキスで止めて終わり。あの邪魔くさいボトルが外されて、晴れて自由の身になる。

傷口を保護したら、シャワーも浴びれるようになる。特に夏場は6日もシャワーを浴びないと髪の毛もギトギトになるので、かなりすっきりする。

入院7日目(退院)

ドレーンを外しても、肺が縮んでいないことを確認したら、あっさり退院できる状況となる。

退院後

こうやって振り返ってみると、案外大したことなかったなと思えてしまうのは、3回目だからなのか。

私の場合、手術後もしばらく肺からの空気漏れが続いていたので多少ドレーンを外すまでに時間がかかったが、場合によっては手術の2日後には外せることもあるだろう。私も2回目(左肺としては初回)の手術の時は、5日で退院できていた。

退院後は、さすがに肺を酷使するような作業は厳しい。気圧の変化が激しいようなシチュエーション(飛行機に乗る、ダイビングをする等)もNGといわれているが、それ以外は普通の生活に戻れる。抜糸するまではシャワーに気を遣う必要があるのも少々面倒なところか。

気胸の再発が怖い人へ

気胸はとにかく再発が怖い。何度も再発している自分にはその気持ちがよくわかる。

ただ、私はもう再発しすぎて、なんだかもうその怖さのピークを越えてしまった感がある。

なったらなったで、「ああ、またか」という感じだし、それで入院・手術したとしてもせいぜい1週間程度である。1週間なんて、普通に仕事していたらあっという間に過ぎてしまうような、何でもない日数でしかない。

そのたった1週間のために、日々再発の恐怖におびえる必要はないと、気楽に考えてみたらどうだろうか。

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